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POTTERS

2015.11.01 Sun UPDATESERIESシリーズ うつわと。Kazuaki Shimura / potterTEXT & PHOTOS : Saiko Ena

UTSU-WA? の開催に合わせメンバーの衣奈彩子が参加作家の紹介をしていきます。

「料理が主役、うつわは脇役」と言う人もいるけれど「料理も主役、うつわも主役」だったらもっといい。そんなことを頻繁に考えるようになっていたある日、陶芸家の志村和晃さんに出会った。ちょうど3年ほど前のこと。志村さんは、作家の工房での修業を終え独立したばかりで、若手作家のグループ展に参加し染付の作品を多く並べていた。それまで染付というと、骨董を見ることが多く格式ばった印象があったけれど、志村さんのそれは、偉そうな感じがなくてすぐに使いたいと思った。

作品のとなりに自作のうつわを使った料理写真のアルバムを置き、使い方まで紹介していたことにもひかれたのだと思う。そこには、煮物や炒め物、チャーハンといった気取らない料理が載っている。自分で作るというその料理は、どれも男子の昼飯といった献立だけど盛り付けの雰囲気がやけによい。鉢ものの真ん中にこんもりと盛り付けられた煮物は、家族の素朴な食事の風景を。小さめのボウルになみなみと注がれたフォーは、混沌としたアジアの屋台飯を連想させた。料理もうつわも主役になっていて、どちらも目に入ってくるから、そこに料理とうつわ以上のなにかを想像できたのだと思う。それは使いたい気持ちにもつながった。
志村さんは、絵付けの磁器も釉薬がきれいな土ものも作るけれど、どれもそれ自体が主張しながら、料理をちゃんと受け止める。作家もののうつわとして、とてもいいバランスだと思った。こんなふうに料理もうつわも主役であるためには、食べたい量とうつわの大きさが合っていることもとても重要。志村さんは、毎日の食べたい食事をより美味しくするうつわが、どういうものかをよく知っている。

そんな志村さんの工房は、千葉県の館山市にある。車をすこし走らせれば、海岸に出られるその場所は、空が広く風が気持ちいい。京都で陶芸の基礎を学び、石川県の工房と益子の工房で働いたのち、2012 年に独立。2 年ごとに修業の場所を変える中で、繊細な京焼、九谷焼の精密な絵付け、益子の土を使ったおおらかな陶器からさまざまなことを吸収した。いまは、そうして得たスキルを最大限に生かして、ものづくりをしたいと考えている。だから、染付の磁器も鉄絵の陶器も、益子の伝統釉を応用した黄色い釉薬やブルーのうつわも制作する。

土も釉薬もテイストも異なる作品をひとりで作っているということは、頭も手もいつもフル稼動。制作は、それぞれのうつわの作業工程を整理し順序よく進める必要がある。菊練り(土を練ること)から、ろくろ成形、乾燥、削りの繰り返しだが、それぞれの作業をテンポよく進めていく。外には、乾燥を待つうつわとできたてほやほやのうつわが隣り合って並び、海辺の町の穏やかな日差しに照らされていた。

 

 「UTSU-WA?Vol.7 うつわと食と夜饗の会」では、志村和晃さんの染付のうつわを使用します。その他の作品も展示販売される予定です。

写真・文 衣奈彩子