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POTTERS

2015.11.05 Thu UPDATESERIESシリーズ うつわと。Yoko Suzuki / potter文・衣奈彩子

UTSU-WA? の開催に合わせメンバーの衣奈彩子が参加作家の紹介をしていきます。

真紅の平鉢ーーーー。それはこれまで見たことのない和食器だった。手がけたのは、陶芸家の鈴木陽子さん。セクシーな雰囲気すらあるこの深い赤色は、磁器の絵付けに使われる赤絵の具をうつわの全面にベタ塗りするという新しい発想から生まれた。京都の伝統工芸の学校で基礎を学んだという彼女がたどり着いた絶対的なオリジナリティにどきどきした。こうしたとらわれのない自由な表現こそが、ヨーコちゃんの持ち味である。

ヨーコちゃん(出会ったのがもうずいぶん前なので、親しみをこめてそう呼ばせてもらっている)の仕事は、おもに、染付、色絵、銀彩の磁器。5年ほど前までは土もののうつわを作っていたが、ふと気持ちが変わり、初めて磁器に取り組んで出品したグループ展にたまたま私が立ち寄った。それ以来のご縁。
私はそのとき、お茶碗のふちやお皿のリムに沿ってストライプの線を数本描いただけのシンプルな和食器にひかれた。ろくろを回しながらさらりとひくと言っていたその線には「染付や色絵はこうでなくては」という気負いがぜんぜんなくてとてもモダンだった。
京都の学校では「持ったときにすこし軽めだと感じるくらいのものが、いいうつわだ」と教えられたそうで、うつわとしてきちんとした形や使いやすい重さだったことにも好感が持てた。

 

その後も個展に足を運ぶと、雪輪紋という日本の伝統的な文様で、なんと磁器のバターケースが作られていたり(いまや人気商品)、箸置きを応用した色絵のカトラリーレストが生まれていたり、和洋中の食事が入り混じる私たちのリアルな生活で使いたいアイテムが、伝統の技法や絵付けで作られていった。真紅の平鉢もそのひとつである。「UTSU-WA?Vol.5うつわと食と薫りの会」で中近東のフムスやサラダを盛り付けたときには、このうつわが内包するエキゾチックな側面が引き出されて、美しかった。

鈴木陽子さんは、千葉県の我孫子市で作陶している。一軒家の一階を仕事場、二階を住居スペースとしていて、玄関では、染付の表札「すずき」が迎える。染付とは、素焼きした生地にコバルトという藍色の絵の具で絵を描き釉薬をかけて本焼きをするもので「下絵付け」とよばれ、対して、赤絵や色絵は、素焼きして釉薬をかけ本焼きをしたあとに絵を描き、もう一度焼き付けるもので「上絵付け」とよばれる技法だが、ヨーコちゃんが取り組む染付も色絵も、このように工程がとても多く、量産の産地では分業制で作られるもの。それを作家が一人でやるにはかなりの手間がかかるけれど、その分、オリジナリティのある作品を追求できるところが気に入っているという。この日、私は初めて色絵(つまり上絵付け)の作業を見せてもらった。絵の具にはあらかじめ布海苔(ふのり・海藻由来の糊)を混ぜ、生地には膠(にかわ・動物由来のゼラチン質の接着剤)を塗る。これは、本焼きしたつるつるの磁器に施す絵付けがはがれないための先人の知恵。ヨーコちゃんは、生地にフリーハンドで下書きをし、絵の具の筆に持ち替えさらさらと描いていく。好きなアンティークの染付や古い有田焼の文様を参考にした図案はもう頭の中にあるので、あとはあまり決め込みすぎずに手の勢いや流れにまかせて描く。軽やかに進む作業に、気負わないから欲しくなるヨーコちゃんのうつわのルーツを垣間見た。

「UTSU-WA?Vol.7 うつわと食と夜饗の会」では、鈴木陽子さんの染付、色絵、銀彩のうつわを使用します。その他の作品も展示販売される予定です。

写真・文 衣奈彩子