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2015.11.10 Tue UPDATESERIESシリーズ うつわと。Hiroy Hanaoka / glass artistTEXT & PHOTOS : Saiko Ena

「シリーズ うつわと...。ガラス作家・花岡央さんのこと」
UTSU-WA? の開催に合わせうつわのコーディネートを担当する衣奈彩子が参加作家の紹介をしていきます。

工芸品やテーブルウェアを扱うライターという仕事柄、ガラスは「涼しげで爽やかで夏に買い揃えたいアイテム」というような原稿をこれまで何度も書いてきた。しかしあるとき気がついた。夏だけでなく秋や冬の時期のテーブルに合うガラス器もあるよねと。そうした目を開かせてくれた工芸家のひとりがヒロイグラススタジオの花岡央(ハナオカヒロイ)さんだった。

ヒロイさんが作るRenシリーズのガラスは、四季を連想させる色を持っている。チェリーのような赤、海の底のようなコバルトブルー、木の葉のブラウン、そしてスノーホワイト。その季節に合う色のガラスが欲しくなる楽しさは、ネイルサロンで色を選ぶときの高揚感に似ているといったら作り手に怒られるだろうか。しかし、うつわとして使う以前にとにかく所有したくなる色、ぐっと心をつかむガラス器であることは間違いないのだ。スリットのあるデザインが懐かしさを感じさせ、心の奥をあったかくすることも手をのばしたくなる理由かもしれない。たくさんある色の中で私がいつも目を奪われるのは可愛らしい赤。なのに、実際に自分の生活に合うと思うのはシックなブラウンやグリーンだったりする。理想と現実のはざ間で揺れちゃうみたいなそういう迷い方は服選びにも似ていて、リアルなもの選びがまた楽しい。自分との関係性を大切に選びたくなるガラスである。そしてもちろん、料理がすこぶる映えるガラスでもある。

GRICEという薄いブルーのシリーズも、ヒロイグラススタジオでしか生まれ得ない作品だ。ヒロイさんの実家の家業はお米作りなのだけれど、GRICEは、手をかけて作ったそのお米を焼いて粉状にしガラスに混ぜることでブルーに発色する。ご家族がお米作りに込めたさまざまな想いが、ヒロイさんのガラスを優しくて澄みわたるブルーに染めているとしたら、なんと心あたたまる話だろう。いいお話が続々と出てくる工房なのである。

花岡央さんは、岡山県の備前市にヒロイグラススタジオを構える。備前焼で知られる地域に育ったヒロイさんは、ごく自然に焼物に携わろうと考え倉敷の芸術科学大学に進学したが、一年生のときに体験したガラスにはまりあっさりと進路変更。同大学で倉敷ガラスの創始者・小谷真三氏に師事する。小谷先生は、濱田庄司や河井寛次郎らとも交流があった人物だが、学生には「これからの作り手は、民芸思想に代表される無名の職人性を重んじるよりも、作家性を重視しながら暮らしの役に立つものを作り生計をたてて欲しい」と諭したという。その後、ガラス作家・辻野剛氏のガラス工房frescoに入社したヒロイさんは、師匠の指揮のもと商品開発の段階から制作に関わるようになり、作品のオリジナリティはもとより、誰にどう届けたいかまで見据えてものづくりをする醍醐味を味わった。ヒロイさんにこの話を聞いて、彼が学びと経験を生かし独立して間もなく生み出したRenシリーズが、受け取るこちらの心を高揚させる理由がよくわかった。

「UTSU-WA?Vol.7 うつわと食と夜饗の会」では、花岡央さんのグラスやボウルを使用します。その他の作品も展示販売される予定です。

写真・文 衣奈彩子