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POTTERS

2015.11.15 Sun UPDATESERIESシリーズ うつわと。Kotaro Matsuura / potterTEXT & PHOTOS : Saiko Ena

「シリーズ うつわと...。陶芸家・松浦コータローさんのこと」
UTSU-WA? の開催に合わせて、うつわのコーディネートを担当する衣奈彩子が参加作家の紹介をしていきます。

数年前、京都のうつわ店で買い求めた安南手(あんなんで)の小皿が好きで、その作り手のことがずっと気になっていた。安南手というのは、ベトナム(安南)の絵付け陶磁器のことをいい、ざっくりとした土の風合いとちょっとラフな絵柄に大陸的な大らかさを感じる焼き物。私が手にした小皿も、ややグレーがかった陶肌に小さな花々がふんわりと描かれていたが、ひかれた一番の理由は、筆のタッチがいわゆる安南手より繊細で軽やかだったからだ。
作者は、松浦コータローさんという日本の若手陶芸家。京都で作陶しているという。現代作家のフィルターを通したベトナム陶器の面白さを感じ、お恥ずかしながら「すごくいい!」と店頭でひとり、唸ったものだ。それから1年は経っただろうか、ある東京のうつわ店のDMに松浦さんの名前を見つけ、その後も展示に通ううち、念願叶ってこの気になる陶芸家に会うことができた。

そのときの展示会では、赤の線が目立つ紅安南手(べにあんなんで)の碗にとてもひかれた。植物の茎や葉が絡み合うように描かれた生命感あふれる構図に、さらりとしたタッチで描き加えられた赤い線は、極々細くはかないのに、存在感がある。松浦さんは、京都の京焼の窯元で絵付け師として7年間勤め技術を身につけたが、京焼のようなハレのうつわもよいが“毎日使える絵付けのうつわ”を作りたいと、仕事の傍ら作品づくりを始めると、長い時間をかけて指先に刻み込んだ精密な絵付けの技術は、どんな構図もモチーフも自分の思うままに表現できるスキルとして、作家・松浦コータローの強みとなった。繊細なのに力のある筆のタッチの秘密はそこにある。
現在は独立し、古伊万里や中国のモチーフをアレンジした染付の磁器とふんわりとやさしい安南手の陶器の両方を手がけている。そもそも安南手は、ベトナムの土や釉薬が日本の焼き物ほど完璧でないことから大らかな雰囲気を醸し出す。松浦さんは、その完璧ではないところに作家として工夫を施す喜びを感じ、日本人としての感性を全開にして取り組んでいる。

松浦コータローさんのろくろは、ゆっくりとまわる。土を成形するときのろくろもそうだが、とくに削りのときのろくろは、他の人に比べてずいぶんとゆっくり。自分にあったそのペースで丁寧に削ることで、より軽く繊細なうつわができると思うと力が入る。

得意の絵付けも去ることながら、土や釉薬の配合にはとくにこだわる。同じ絵の具で同じ絵を描いても、材料の配合やそれぞれの組み合わせによって仕上がりの雰囲気は何通りにもなる。骨董品の染付や安南手に宿るしっとりとした美しさ。真っ白ではない奥行きのある白。京都で古いものに親しみながら憧れた理想の焼き物を目指して、日々、研究と制作に没頭している。その工房は、滋賀県大津市の、とある丘のほぼてっぺん、丘の反対側に比叡山を望む最高のロケーション。夕日がすっかり落ちても、作業はずっと続いていた。

「UTSU-WA?Vol.7 うつわと食と夜饗の会」では、松浦コータローさんの安南手のうつわを使用します。その他の作品も展示販売される予定です。

写真・文 衣奈彩子