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POTTERS

2016.06.01 Wed UPDATESERIESシリーズ うつわと。Kaoru Matsumoto / potterTEXT & PHOTOS : Saiko Ena

「シリーズ うつわと...。陶芸家・松本かおるさんのこと」
UTSU-WA? の開催に合わせて、うつわのコーディネートを担当する衣奈彩子が参加作家の紹介をしていきます。

土ってこんなにやさしい色をしているんだ——。そう感じたのは、陶芸家の松本かおるさんの作品を両手のひらに包んだ時だった。陶器というものが、土から生まれるということはもちろん知っていたのだけれど、その当たり前のことに、初めてちゃんと気づかされたような初々しい気持ちになったのである。目の前にいくつかあったボウルは、ひとつひとつ色味が違って、肌色に近かったり、オレンジが強かったり。そうした色の違いは、土の成分によるという。うつわを通して、土と戯れているような感覚を得てなんともいえず心地よかった。

松本さんは、陶芸家を意識するようになったはじめのころから、プリミティブな古代の焼物に興味があったという。ファッションブランドのプレスやレストランのPRという華やかな仕事に就いていた彼女は、忙しくも楽しい毎日を送っていたが、趣味で始めていた陶芸が思いのほか面白く、本格的に取り組んでみたいと思ってしまった。そこで仕事を辞めてしまうというのが、松本さんのすごいところ。焼物の学校に入るため猛勉強をし、会社を辞めてすぐの春には、岡山県にある備前焼の町に住んでいた。

陶芸家を志すにあたり選んだ焼物が備前焼というのが、また面白い。備前といえば、日本の六古窯のひとつで、炎の流れを感じるような力強い雰囲気の壺や花器、使うほどに味わい深く育っていく酒器などの焼物で知られる。ファッションや食の最先端にいた女性が一番に飛びつく焼物とはちょっと考えにくいが、よく聞いてみると松本さんは最初から、力強い緋色や渋さではなく、備前焼のなんともやわらかい土の色にひかれていたのだそう。この土のやさしさとテクスチャーを持ってすれば、きめ細やかでスムースなモダンなうつわを作れるのではないか。伝統的な備前焼を東京出身の女性らしい現代的な視点で捉えていたのである。陶芸の学校で学んだあと、弟子入りしたのも、モダンな備前焼を手がける星正幸さんだった。シンプルな形に土の色を閉じ込めるような星さんのうつわ作り。すべて手作業で原土を砕き不純物を取り除いて土を作るところから、一年に一度、二週間に渡って行われる薪窯の窯焚きまでを手伝う中で学んだのは、ひとつひとつの工程をサボることなく、丁寧に積み上げていくことで生まれるものの素晴らしさだった。

釉薬をかけずに焼く「焼締め」と呼ばれる備前焼は、同じ土を使っても焼き方によって、黒くいぶしたようにも、土の色そのままに仕上げることもできる。土の魅力をどう生かしうつわとして人に伝えるのか、考えるのは人である。陶芸家を志してからもうすぐ10年。松本さんはいま、備前の土のやわらかな表情を作品に表現すべく奮闘している。その柔らかさを受け止めるのは、女性でも使いやすく現代の食卓にあうフォルム。薄くて軽いプレートや手に包むだけであったかさを感じるボウル、口触りのいいマグカップなど、女性陶芸家・松本かおるさんの手だからこそ生まれるうつわを追求している。

取材のとき、彼女の腕には、焼き方によっての異なる粘土の玉を連ねた可愛らしいバングルが。伝統の備前焼をもっと知ってほしい、使ってほしい。松本さんの想いは深い。

「UTSU-WA?Vol.8 うつわと食とフリーダの会」では、松本かおるさんの備前焼を使用します。その他の作品も展示販売される予定です。

写真・文 衣奈彩子