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POTTERS

2016.06.10 Fri UPDATESERIESシリーズ うつわと。Kanako Kimura / potterTEXT & PHOTOS : Saiko Ena

「シリーズ うつわと...。陶芸家・木村香菜子さんのこと」
UTSU-WA? の開催に合わせて、うつわのコーディネートを担当する衣奈彩子が参加作家の紹介をしていきます。

数年前、ある人気陶芸家の工房を取材で訪ねたときのこと。倉庫を利用した大きな仕事場の、彼とは反対側のスペースに、きれいな色のお皿がちらほら並んでいるのを見つけた。聞くと奥様で同じく陶芸家の木村香菜子さんの作品だという。しばらくして二度目にお邪魔した時にも、工房の同じ場所に、今度はマグカップやポットがあって可愛かった。しかしこの日もご本人とはあまりお話できず……。この度、三度目の工房訪問にして晴れて木村さんにお話を聞くことができた。だんな様は、陶芸家の大江憲一さん。岐阜県瑞浪市で、2歳と生まれたばかりの女の子を育てながら、夫婦それぞれに毎日の食卓で使える普段使いのうつわを作っている。

木村さんが手がけるのは、リム皿、オーバル皿、ボウル、カップやポットといった洋皿のフォルムのうつわ。一見、プロダクトのように精巧な作りをしているけれど、そこはなんといっても陶芸家の手作り。ひとつとして同じものはなく、可愛らしいゆがみのあるものや、色の濃淡が美しいものなど、人の手の跡が感じられてなんともあったかい。うつわの手触りやパステルカラーの色味のせいもあるけれど、そのあたたかさの源は、木村さんの使う人を思う気持ちにあるのだと思う。

東京造形大学でプロダクトデザインを学んでいた頃、たまたま募集のあった磁器の産地・長崎県波佐見町のプロジェクトで、地元の職人さんに焼物のノウハウを教わりつつ作品を作り上げる機会に恵まれた木村さん。一見するとシンプルな白磁のフリーカップを計画したが、その底には、飲み進めるにつれ三日月が顔を出すというなんとも微笑ましい仕掛けが。カップの底にお月様型のくぼみを配置したデザインは、初心者が作るには複雑で、職人さんをうならせたと言うが、木村さんは、最後まで諦めずに形にした。そういう経験を経て、ものづくりをするならばデザインをするだけでなく、自分が考えた理想の形を自分の手で作品にすることを生業にしたいとそのまま陶芸の道へ。多治見の陶磁器意匠研究所を経て独立した。

波佐見で作ったフリーカップのように、使うことで人を楽しませ笑顔にするうつわを作りたいという気持ちが、いつも心にあるのだろう。木村さんは、心が和む綺麗な色のうつわを人々に届けたいと釉薬の研究に余念がない。パステルカラーひとつとっても、色の濃さをどうするか、マットにするか、ツヤのあるもののほうが良いのか細かく検証していくし、色にインスパイアされて形が浮かぶこともあるという。琺瑯のようなブルーは、その質感に合わせて、文字通り琺瑯のポットやマグカップのような作品に仕上げた。スープやパスタ、サラダにコーヒー。洋風の献立に使える手作りのうつわは、私たちの食生活にピタリとはまり、食事を楽しくしてくれる。

「UTSU-WA?Vol.8 うつわと食とフリーダの会」では、木村香菜子さんのうつわを使用します。その他の作品も展示販売される予定です。

写真・文 衣奈彩子