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POTTERS

2016.06.20 Mon UPDATESERIESシリーズ うつわと。 Ikumi Hiruma / potterTEXT & PHOTOS : Saiko Ena

「シリーズ うつわと...。陶芸家・比留間郁美さんのこと」
UTSU-WA? の開催に合わせて、うつわのコーディネートを担当する衣奈彩子が参加作家の紹介をしていきます。

陶芸家の比留間郁美さんと初めて出会ったのは、「UTSU-WA? Vol.2 うつわと食と茶の会」の参加作家としてお声がけをした時。あれから5年、彼女の作品は、年を重ねるごとに洗練され大人の女性が使いたいうつわに進化している。ライフスタイルショップやファッション関係のお店で作品の取り扱いが多い比留間さんは、陶芸家というよりアーティストの雰囲気。展示のテーマに合わせて毎回オリジナルな世界観を作り上げる。
モチーフや色はその都度異なるけれど、共通しているのは絵画から出てきたような洋皿のフォルムと転写プリントによるファンタジー溢れる絵付け。転写プリントとは、草花や動物の絵柄のシールを使って、うつわに模様を転写し釉薬をかけて焼く技法で、おもに工業製品、つまり量産の食器の制作に使われるもの。比留間さんは、ある時、陶芸材料店で転写シールを見かけいつか何かに使おうとバラとトラのモチーフのシールを購入した。しかし、このシールを実際に使うのは、もうすこし後になってからのこと。

女子美術大学で陶芸を学んだ比留間さんは、学生時代から赤をテーマに花や心臓をモチーフにした急須のシリーズを作るなど、コンセプチュアルな作品づくりを得意としていた。卒業後は、信楽の陶芸の森で半年間制作。ここでの活動が、彼女の陶芸へアプローチをさらに進化させる。きっかけとなったのは、当時、ビエンナーレに合わせて来日していたフィンランドの陶芸家、タピオ・ウリ・ヴィーカリとの出会い。アラビアのアートデパートメント部門にいたこともあるこの年配の男性陶芸家は、その年齢に似合わず、陶芸の森の庭用にと、ピンクのドット柄のピクニックマットを陶器で作ると張り切った。結局その作品は失敗してしまったのだけれど、それも含めた彼のものづくりを見て比留間さんは思う。「陶芸って、もっともっと自由でいいんだ」と。

そう考えた比留間さんがその後発表した作品が、その名も「ピクニック」。ピクニックとはフランス語で「つまらないありきたりなもの(ピック)をつまんで集める(ニック)」という意味。この時ついに、以前手に入れたバラとトラの絵柄の転写シールが活躍する。展示会「ピクニック」は、工業製品の食器をありきたりなものと捉え、それに使用する転写シールをありきたりではない彼女なりのアイデアで、うつわにコラージュするというコンセプチュアルな展示になった。この展示をきっかけに、転写プリントを手作りの陶器に自分の手でコラージュすることにのめりこんだ比留間さん。独自の作風がどんどん生まれていった。草花やフルーツ、猫や鳥などの動物、中世の人々など、ヨーロッパのアンティーク皿に描かれているようなモチーフを選び配置するコラージュは、比留間さんならではの間合いがあって、ちょっとシュール。

比留間さんは、最近、奈良市の中心地から東吉野の村に引越しをした。移住に際し、出会った物件は、グリーンの玄関とピンクの壁の部屋が迎えるなんとも彼女らしいもの。川と山に囲まれたのんびりとした場所から、日本の土を材料に、一度使ったら癖になる可愛らしい洋皿が次々に生まれている。

「UTSU-WA?Vol.8 うつわと食とフリーダの会」では、比留間郁美さんがフリーダをイメージして制作したうつわを使用します。その他の作品も展示販売される予定です。

写真・文 衣奈彩子