JOURNAL

POTTERS

2016.06.30 Thu UPDATESERIESシリーズ うつわと。 Nana Kamio / potterTEXT & PHOTOS : Saiko Ena

「シリーズ うつわと...。陶芸家・神尾奈々さんのこと」
UTSU-WA? の開催に合わせて、うつわのコーディネートを担当する衣奈彩子が参加作家の紹介をしていきます。

作家のうつわに興味を持つようになった最初のきっかけは、色と形にひかれたことだった。それまで見ていた和食器は控えめな色味のものが多く、お皿や鉢は汁気のあるおかずでも盛りやすいよう大抵カーブを描いていた。しかし私たちのリアルな食生活は、もはや和食だけではない。パスタもパンもサラダもガパオライスも同じ頻度で食卓にのぼる。そうなると色はもっと自由でいいし、ワンプレートのごはんにはフラットなお皿が盛りやすい。というより、私たちの記憶の中にあるうつわの色や形がそうなりつつあるのだと思う。そういううつわがプロダクトではなく、作家さんが頭をひねり手間をかけて完成させた作品だということにひかれたのだった。陶芸家の神尾奈々さんのうつわもそのひとつ。

神尾さんは、イタリアやスペインのカラフルでやさしい陶器が好きでスペインに留学し、その後イギリスで陶芸を学んだ人。フラットなプレートや高台のないボウルなど洋皿のフォルムの食器や陶器のボトルを作っている。神尾さんいわく、ヨーロッパのもの作りは、日本のそれとは全く違うそう。あちらでは、課題を制作するにも最初にコンセプトをしっかりと立てることが大事。やろうと思ったことを貫き作品として表現できているかが評価の対象となる。大事なのは、他人の評価ではなくこうしたいという自己の意識ということ?

ヨーロッパでの学びを経て日本でうつわ作りを始めた神尾さん。「綺麗な色のうつわを提案したい」という思いのもと、さまざまな青いうつわを作り出す。ヨーロッパやアジア各国を旅する中で記憶に刻まれた海の青、空の青、その土地土地で見たいろんなブルー、釉薬を幾通りも調合することで生まれる深さも質感も違う青色を見ていると、自然の中なのか、大海原なのか、どこか大きな世界に吸い込まれていくような気持ちを覚えて心地いい。同じ釉薬でも、土を使い分けることで色味が変わり、窯焚きの状態によっても色の出方が異なるから同じものはできない。神尾さんは手作りの焼物が生み出す偶然のブルーというものを大切にしているのだ。

インスタグラムを見ていると、彼女の作品をイタリアンにもアジアのごはんにも上手に使いこなしている人がたくさん。それを見るにつけ「自分はとにかく綺麗な色を出すことだけに注力しよう」とますます思うようになったという。使い方は、持ち主が自由に決めてくれればいい。そう思っている。
神奈川県横浜市にある工房にお邪魔すると、作業の場所だというのに女性陶芸家らしいおしゃれな空間。漆喰の壁を塗り、自作の陶器の破片を埋め込んで棚を作り(実はほとんどお父さんが!)、小さなテーブルを置いた。彼女が大好きな南ヨーロッパの食堂のような雰囲気で、奥からおいしい料理の匂いとマンマの声が聞こえてきそう。

「UTSU-WA?Vol.8 うつわと食とフリーダの会」では、神尾奈々さんのブルーのうつわを使用します。その他の作品も展示販売される予定です。

写真・文 衣奈彩子